葬儀で心付けが必要な相手とは?その相場や渡し方のマナーについても解説
- 2023年02月02日
お葬式手配の「よりそうお葬式」
日本では欧米のようなチップの制度は無いものの、一部では昔から「心付け」という習慣があります。葬儀で、もし喪主や世話役になった時はこの心づけを渡す立場になります。どんな時に心付けが必要なのか、そしてどんな人にいくらぐらい渡すのか。それをこれから解説していきましょう。
心付けとは?
「心付け」は、欧米の「チップ」とほぼ同じ意味合いですが、多少異なるところもあります。たとえば、アメリカではレストランやタクシー運転手に対するチップは、お礼というよりサービスの対価で、必ず支払うべきものです。つまり相手も当然もらうべきものとして思っています(ヨーロッパではそこまでではありません)。
一方、日本の心付けはその名のように、サービスに対する「お礼」の意味合いが強いものです。葬儀以外の代表的なものに、旅館で心付けを渡す習慣がありましたが、今では格式ある旅館や老舗の旅館以外では、ほぼなくなりつつあります。
それでは、葬儀の場合の心付けとは、どういうものでしょう。
これは葬儀社に払う葬儀費用以外に、葬儀に関わるスタッフにお礼の意味を込めて直接渡すものです。あくまで心付けなので、上述したアメリカのレストランやタクシーでの場合のような義務ではありません。しかし、逆に決まっていないというのも、迷ってしまいがちですよね。
必要なのか?不要なのか?
一般論からいうと、心付けだけに限らず、葬儀のあり方自体が2000年代に入り大きく変わり、費用も提示された金額以外にはかからないようになりつつあります。
結論から言えば、心付けを渡す習慣が今も残る地方、格式が高く費用も高いお葬式、年配の方の考えなどを除き、今では葬儀関係者への心付けは不要が前提と考えていいでしょう。ただし、無償で葬儀のお手伝いをしていただいている方と、宗教者はのぞきます。
20年ほど前は、心付けの習慣はまだ広く残っていたようです。
しかしその後、葬祭業界がお葬式費用を明朗会計のセットプランを中心に組み立てていく過程で、心付けの習慣も消えていくようになりました。都市部ではお葬式は簡略化されていき、核家族化や親戚付き合いの減少により葬儀の作法を知らない人が増えたことへの対応もあります。
インターネットで調べると、「心付けは必要」と書かれているサイトも多いですがそれは少し前の状況で、現在では基本は不要、渡したほうがいい場合は例外的にあるというぐらいに考えた方がいいでしょう。ただし地方差があるので、今も心付けを渡す習慣のある場所もあります。
また、年配の方に聞くと心付けを払うのがふつうだったので、葬儀を行う前に、最新の情報を周囲や葬儀社に聞いておくといいでしょう。葬儀社に聞いても失礼には当たりません。
心付けを渡す相手と金額相場
心付けの金額ですが、必ずではないですが香典などに準じて、2,000円、4,000円などの割り切れる金額を避ける傾向にあるようです。ただしそうした金額を渡しても失礼ではなりません。
寝台車や霊柩車の運転手
寝台車は病院から葬儀社の安置場所やご自宅への移動に、霊柩車は斎場から火葬場へご遺体と喪主を乗せて運ぶ時に利用します。現在では、ご遺体の移動は葬儀社のセットプラン(回数や距離の制限あり)に含まれていることが多く、基本的には心付けは不要です。渡す場合は、それぞれ3,000〜5,000円が目安となります。
ハイヤーの運転手
遺族や参列者が葬儀場や火葬場に行く時にタクシーやハイヤーを利用する場合があります。ハイヤーの場合は葬儀社で手配する場合は基本的には心付けは不要ですが、渡す場合は1,000円程度でいいでしょう。
マイクロバスの運転手
葬儀場から火葬場への往復など、参列者たちを乗せて移動します。通常は葬儀社に手配するので、費用は含まれており、心付けは不要ですが、渡すなら2,000〜3,000円程度が目安になります。
火葬場のスタッフ
火葬場には、実際に火葬を行う係員と火葬を待つ休憩室で飲食のお世話をする係員がいます。以前はこうしたスタッフに心付けを渡す習慣があったのですが、現在公営の火葬場では心付けを受け取ることを禁止しています。また、民間の火葬場でもそれにならい、不要のところが増えています。
一般的には東京以外の地方は公営の火葬場が主です。ただし東京でも7割の火葬を行っている民営の東京博善が、2021年1月の料金値上げの際に「心付けの辞退」を発表しています。詳しくは最新事情に詳しい葬儀社に尋ねるといいでしょう。
以下は、心付けを払う場合の目安です。
火葬スタッフ 3,000〜5,000円
(複数人まとめて。葬儀社から渡してもらってもいい)
休憩室係員 1,000〜2,000円
(食事後に。飲み物代などを注文に応じて支払う場合は不要)
料理配膳人
斎場や近くのレストランなどで、精進落としなどの会食で料理を配膳してくれる人へ心付けを渡す習慣があります。ただし配膳人が付くと、料理代金以外に配膳料として5,000円程度プラスされることがあります。その場合は不要でしょう。
もし払う場合は、スタッフひとり1,000〜2,000円程度を目安として代表者に渡すといいでしょう。
葬儀のお手伝いをしてくれた方(受付係、案内係、台所係、世話役)
基本的には無報酬で引き受けてくれた方たちですが、気持ちを表すためにお礼は必要です。ただし、その地方の習慣や相手との関係もあるので、金額は周囲に聞いてから決めるといいでしょう。
世話役は、最近では喪主が兼任する場合が多いですが、大きい葬儀の場合は世話役が複数つく場合があります。その場合は代表の方に1〜3万円、その他の方に5,000〜1万円程度をお渡しするのが一般的と言われています。
また、受付や案内、会計などは、親戚の方にお願いした場合は3,000円程度、友人や知り合いの場合は少し多くて5,000円程度
僧侶への心付けについて
ここでは宗教葬では最も多い仏教式について解説します。
一般的に、葬儀費用として葬儀社に払う費用や葬儀プランには宗教者への支払いは含まれていません。ただし金額がわからなければ、葬儀社の方に聞けばアドバイスしてもらえます。
通常、お坊さんには「お布施」と言う形で、読経料や戒名料などをまとめてお支払いしますが、その他に習慣として心付けをお渡しすることがあります。
お車代
お車代は、葬儀に来ていただいた僧侶に道中の費用として渡すもので、実際の交通費プラス5,000〜1万円が目安になっています。例えば自家用車で来た方なら1万円、遠方から来た場合は多めとすると良いでしょう。お寺で葬儀をしたり、自分たちで車を用意する場合は不要です。
お食事代
お食事代は、精進落としなどの葬儀の際のお食事を僧侶が辞退された場合に、お渡しするものです。最近では食事の席に同席しない僧侶の方も少なくありません。その場合にお渡しする金額は、実際の金額に2,000〜3,000円上乗せして、5,000〜1万円というのが目安です。もちろん僧侶の方が食事に同席する場合は不要です。
心付けを入れる封筒と表書きについて
心付けは、現金をそのまま渡すのは失礼に当たり、小さな不祝儀袋、あるいは白い無地の封筒に入れて渡すのが礼儀です。封筒なら折らずに、小さな袋ならお札を三つ折りにして入れてかまいません。
ただし、小さな袋に入れて渡すのは小額の場合で、5,000円以上なら白封筒に入れて渡すのが丁寧かと思います。急に渡す機会が生じることもあるので、心付け袋はあらかじめ多めに用意しておきましょう。
表書き
不祝儀袋、封筒ともに表書きは、上に「志」「御礼」、あるいは「心付け」「心づけ」、下に自分の名前(名字だけでかまいません)を書きます。名前は裏面の左下に書くこともあり、その場合でも名字だけです。字を書く時は、薄墨でなく黒のサインペンでもかまいません。
僧侶への心付けは、「御布施」または表書きには何も書かないで渡します。
心付けを渡す際のマナー
お礼の気持ちをこめて渡すという基本を頭に描いていれば、特に気をつけなくてはならないマナーはありません。汚れたお札ではなく、また袋や封筒に入れて渡すなどの常識的な範囲内で大丈夫です。また、全体的になくなりつつある習慣なので、無理して渡さなくてもかまいません。
心付けですので、直接相手に手渡しするのが原則です。もし余裕がない場合は、身内の方や信頼できる方にお願いしましょう。葬儀社に預けておくケースもありますが、「一緒にお渡ししたいので声かけてください」と目の前で渡してもらうようにしましょう。
ただし菩提寺の僧侶に来ていただいた場合は、他の「お布施」とともに喪主から渡すのが礼儀でしょう。
心付けのまとめ
かつては葬儀の際に関係者に心付けを渡すのが習慣でしたが、2000年代以降、葬儀社や互助会、火葬場などの業界全体で受け取らない方針に転換してきました。
心付けによってサービスが変わると思われてしまうのは、業界によってマイナスの印象になってしまうからです。もちろん地方や地域によって、現在でも心付けを渡すのが常識というところもあるので、一概には不要とは言えません。
特別に何かをしてもらった時や、気持ちの良いお葬式の場合は、心付けを渡してもかまいませんが、公営の火葬場や規定で決まっている葬儀社では辞退されることもあることをご了承ください。
お葬式手配の「よりそうお葬式」
監修者のコメント
岩田 昌幸 一般社団法人 葬送儀礼マナー普及協会
冠婚葬祭のシーンでは心付けを渡す慣習があります。近年は明瞭会計の流れを受けて、心付けを渡すケースが少なくなりましたが、地域によってまだ残っていることもあるでしょう。業者への心付けは葬儀社が一括で預かって渡すこともありますが、その場合は喪主も一緒に必ず目の前で渡してもらうようにします。